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この滝の近くに若いきこりの夫婦が住んでいて彼等には一人のかわいい女の子があった。訪う人とてなき、この淋しい山の中の一軒家で親子水入らずの三人の生活はとても楽しいものであった。
四季にうつりかわる周囲の景色を眺め日ごとに成長していくわが子の行末を夢見つつ元気で働けることは彼等にとって何よりの幸福と思われた。
しかしその幸福も永くつづかなかった。美しい妻は、ふとした病がもとでまだあどけない娘を残してついに帰らぬひととなってしまったからである。平和で楽しかった彼等の生活は一瞬にしてこわされてしまった。
足手まといの子をつれて深山のきこりの仕事はあまりにも無理であった。それのみか毎日の生活さえ男一人の手では思うままにならない。そこでやむなく第二の妻が迎え入れられた。
子供はやがて五、六才となったが後入りの妻はこの子がじゃまで仕方ないので何かにつけていじめていた。たよりの父は、毎日朝早く家を出て夕方はおそく帰るので子供にしては、まま母と終日暮らすよりほかなかった。「実の母が生きていてくれたら」と子供心にも今は帰らぬ母を慕って幾度泣いたことであろうか。
さて、ある夏の昼さがりのことであった。野良仕事を終えた母と子は滝の上の岩にならんで滝を見下ろした。いつもは子を憎むまま母も今日だけは言葉もやさしく「しらみをとってやろう」と例の子に言いながらその子を膝にひきよせその髪を分けはじめた。
すぐま下には幾十尋とも知れぬ断崖を水は白竜のおどり狂うが如く地ひびきたてて落ちていた。このまま母に恐ろしいたくらみがあろうなどとはつゆほども知らぬこの子はうれしさに無心になって自分の帯と母の帯の端と端とをしっかりと結んでいた。
そのときであった、ころを見はからった母はわが膝に寄りそう娘を万身の力でつき落した。しかし千尋の滝つぼへもんどりうって落ちていったのは、いたいけなまま子とそれをこよなく憎んでいたまま母との二つの塊であったのである。 |